第10章 知らない女の子と五条くん
「硝子、食べ終わったら話すわ」
安直で単純な時間伸ばし…そんな問題の先送りを硝子は「それなら」と呑んだ。
美味しいはずの食事が塩味も旨味も感じられない。
辛さの中に甘さの残る食べやすいカレーと、ふわふわとろとろの卵、バターのコクを感じるライス…だったのに。
味気ない物体にはそれぞれ固さや食感の違いはあれど、楽しんで食べる余裕なんてまるでない。
無味乾燥となった雰囲気は、ほんの少しですら私の状況を緩和してくれない。
一旦は強引に風呂敷を閉じた話。
それをこじ開けるのを楽しみに待つ硝子と、なんならその手伝いまで率先して行いそうな五条くん。
この地獄の雰囲気をどうやって楽しめと言うのよ…?
はぁ…、断罪人にでもなった気分だわ。
自分が注目されることにすら慣れていないのに、硝子と下着屋さんで話した恋バナを今度は自分主体で話そうなんて、私には無理な話。
履けもしない大きめサイズの靴下を買って持て余すような私だなのよ。
スケールの違う、規格外の出来事に翻弄されるのは必至だった。
靴下……そういえば、五条くんは袋の中身について誤解をしていたわね。