第10章 知らない女の子と五条くん
「っえ、」
「スプーン変えたとしてもさ、間接キスってやつ?平気なの?」
何気ない仕草に気持ちが表れるなんて、誰も教えてくれなかった。
「楽しい思い出」も「次」も…そういったよくよく考えれば、誰かと関わってできた記憶すらも、そんなことは組み込まれていなかった。
「隠しきれなくなっている」硝子の言葉を反芻する。
頭では反省をしつつ、脳をフル回転させる。
「えー…と」
五条くんの方をチラリと見やる。
「もがもご…っくく、!」
とっくに空っぽになった何にも入っていない口を、さも咀嚼しているかのようにもぐもぐと動かす。
こんな時に限って黙りこくる五条くんに、裏切られたと感じるのは当然のこと。
でも…白々しく食事をするフリを続ける五条くんだけど、込み上げてくる笑いは飲み込めていないようね…?
「元々そういうのに抵抗はない…のよ」
「入学したばっかりだったら騙されてたかもしれないけどさ。寧々は嫌がるタイプだって知ってるからなぁ」
苦し紛れの受け答えも硝子には何の意味もなさない。
まさか、まさかね、自分の方から二口目を差し出すことになるとは…思っていなかったの。
そしてそのスプーンで墓穴を掘ることなんて、誰が予測できたでしょうね…。
穴があったら入りたい…けど、あぁ…墓穴だけは避けなければならなかった。