第10章 知らない女の子と五条くん
「も、桃…?」
五条くんの一言に記憶が呼び起こされる。
あの日2人で分け合ったのも白桃のゼリーだった。
最初はみかんゼリーを食べて、物足りなくて一緒に白桃ゼリーまでも分け合って食べた。
おかしいくらいに甘くて美味しい、幸せな味がした…と記憶がぶり返す。
「寧々の味がす「カレーの隠し味に桃でも使われてるのかしら…ね?」
一口だけと約束したのに、まさか自分の方から二口目を差し出すことになるとはね。
有無を言わせず五条くんの口の中に突っ込んだスプーンを引き抜く。
あの時もそうだった、記憶の片隅…いえ、ど真ん中に焼き付いている。
「ねぇねぇ、寧々の味ってなに?」
「さぁ?五条くん、気でも触れたんじゃないかしら」
五条くんを黙らせたところで、横にいる硝子までもが黙るはずはなかった。
「うん、美味しいわ。フルーティーな味がするのね」
強引に話を切り替えて、五条くんに使ったスプーンとは別の新しいものを取り出して、自分の口に一口運ぶ。
辛さの中に甘さの残る食べやすいカレーと、ふわふわとろとろの卵、バターのコクを感じるライス。
三位一体となった美味しさは、ほんの少しだけこのマズい状況を緩和してくれる。
「ところでさ…寧々、そこ五条の食べかけのとこだけど」