第7章 夏休みといえば
「寧々、会場に着いたら手繋ぐ?」
「嫌」
高専から出店の立ち並ぶ通りまで、人間0.3人分の間隔をあけて並んで歩く。
どちらかが触れようと思えば、簡単に手は繋げる距離。
「もう2度と手は繋が…っ!?」
歩き慣れた山道と履き慣れない下駄。
無造作に散らばった石ころに足を取られて、体はぐんっと前屈みになる。
転ぶ…!
それでも地面に向かって倒れなかったのは、
「っと!危ねぇ!寧々、大丈夫か!?」
咄嗟のところで、五条くんが支えてくれたから。
「だ、大丈夫…っ、ありがと…ぅ」
転ばずに済んだ私を五条くんは後ろから抱き寄せたまま。
腰に回した手を離そうとはしてくれない。
「離してっ」
「ダメだ。寧々に怪我させたくないんだよ」
強制的に手を繋がれた。
私から振り解けないように、恋人繋ぎで。
強く、固く、握り締められた。
でもきっと、五条くんは気付いてない。
私がこの手を離す気が、段々薄れていること。
心からの拒絶はなく、五条くんの体温を愛おしいと思い始めていること。
このことはまだ…自分でも認めきれていないけどね。