第6章 クッキーとゼリー
「喉乾いてないか?自販機で買ってきたやつあるから飲めよ」
「あ、ありがとう」
泣き潰した喉はカラカラに乾いていた。
五条くんはむくりと起き上がって、飲み物を取りに行こうとする。
「…待って!い、行かないで…っ」
「寧々?」
体は1ミリも動かせないのに、反動のように大きな声が飛び出た。
「ゲホッ…っ、隣にいて…っ、お願い…っ」
「どうした?大丈夫だ、隣にいる。不安にさせてごめんな。大丈夫、大丈夫だ、寧々」
五条くんが私の側を離れようとしたから。
咄嗟に呼び止めてしまった。
隣がガラ空きのベッドを見た時に、そこに兄のような幻覚が見えて。
実際は兄はもうここには居ないのに。
再びゆっくりと横になった五条くんの蒼い瞳を見つめていると、兄らしきものはスーッと消えていく。
怖かった。
兄は場所を選ばす、衝動的に虐待をすることが多かったけど…1番多かったのはベッドでの加虐だったから。
兄のベッドだろうと私のベッドだろうと、その上で行われるのは兄妹間の最低最悪な行為。
一方的に兄を打ち付けられた過去がぶり返す。