第6章 クッキーとゼリー
五条くんのおちゃらけた態度が、私から兄を忘れさせる為のわざとだったことに気付くのはずっと後。
「食べカスをこぼさないで」
「わりぃな、クッキーってそういうもんだろ」
どこまでもマイペースな五条くんはまるで大きな猫のよう。
白い被毛の厚かましい猫は、あっという間にクッキーを食べ終わりそうだった。
「あ、最後の1枚だ。寧々にやるよ」
「元々私のものなのだけど」
「まぁまぁ、いいから。こっち来いよ」
ローテーブル横に居た私に手招きをする。
「五条くんが来ればいいでしょう」
口ではそんなことを言いながらも、招き猫のすぐ側まで寄ってしまう。
「はい、あーん」
「…ふ、ふざけないで!」
目の前に馬の人参よろしく突き出されたクッキーに、そう易々と食いつくわけないじゃない。
「あれ〜?寧々〜?拒絶すんのか〜?」
「煽られたって食べないわよ」
そこまでしてクッキーが食べたいわけじゃない。
自分用に買っておいた、子供の頃からのお気に入りのメーカーだけど。
「しょうがねぇな、口移ししてやるよ」
「もっと嫌なんだけど」
五条くんがクッキーを咥えた時だった。