第1章 春組『出会い』
「良い意味でも悪い意味でも馴れ馴れしいでしょ。私が思う至さんの先輩はこれだったんですけど…どうでしょうか」
「…うん。そんな感じかな」
至さんはニッコリ笑って頷いた。
……これはもしかして言いすぎた?
「……私、劇の事になると人の気持ち考えられないらしくて、言い方悪かったですか?…ごめんなさい」
悪い癖が出たらしい。
皆に嫌われたら二度とここに来れなくなる。
それは絶対に嫌だ。
…MANKAIカンパニーの存続がかかってるなら、私も少しでも役に立ちたいと思ってたのに。
下を向いてしまう。
すると咲也くんが笑った。
「いえ、全然!勉強になります!」
いづみが私の肩を叩きながら言った。
「アドバイスしてって言ったのは私だし、そんな事で皆が雨国を嫌いになったりしない」
皆が頷くと真澄くんは呟く。
「別にアンタを好きでもないけど」
「おい、真澄!」
綴くんが慌てて小突いた。それを見て私は首を振って微笑む。
「好きになってもらえるように頑張るね」
そういうと真澄くんは目を少し丸くしてからフッと顔を背けてしまった。
その後も練習をして朝練は終了した。
作っておいたご飯を出すと皆すぐに手をつけた。
「オー、カレーじゃない朝ゴハン久しぶりヨ!」
「本当だね。雨国さんは料理上手だ」
シトロンさんと至さんが微笑みあっている。
いづみは頬を膨らましていた。
「なんですかそれ!カレーも美味しいのに」
「いや、毎日カレーはやばいっす」
「でも監督のカレー美味しいですよ!」
「そうだ。監督のカレーが世界一。だから黙って食え」
否定する綴くんとフォローする咲也くんに淡々と返す真澄くん。
…凄い暖かいなここ。
家族みたい。
つい微笑んで皆の会話を聞いていた。
夜ご飯を食べ終えて帰る準備をする。明日にはまた仕事が待っている。
玄関で靴を履いていると
「車出そうか?」
と至さんが歩いてくる。
電車で帰ってもいいんだけど確かにほんと2駅くらいだからバスで帰ろうと思ってたところだ。
それに、…至さんと仲良くなりたいし。
…よし。
「……お言葉に甘えても良いですか?」
「もちろん。じゃあ出してきますね」
至さんは少し微笑んで車を出しに行った。