第1章 春組『出会い』
ルームメイトで2人組を作っている。
まずは咲也くんとシトロンさん。
設定は生き別れの兄弟。結構反応は大きくしやすいし簡単だと思う。
驚きや嬉しさ、色んな感情が混ざっていることを表せると尚良しだ。
2人のエチュードを見終える。いづみは2人を見た。
「うん。2人とも前より良くなってる。でも、生き別れの兄弟なら軽すぎるかも。もっと大袈裟に驚いてみてもいいね」
そして次は真澄くんと綴くんのエチュード。
こちらは高校で初めて会って友達を作ろうとお互いが歩み寄る関係。
…少し難しかったようだが見えてくる。
こちらも終わって今度は至さんと真澄くん。
2人は高校の部活の先輩と後輩。とても仲が良い設定らしい。どういう話にするか…。
全てを見終わって私は拍手をしてから立つ。そして皆がこっちを見た。
「皆練習頑張ってるんだね。すごいよ。でも……皆、劇って知ってる...?」
言葉の意味が分からないと皆眉をしかめた。しかし私は続ける。
「劇って言うのは表情も大事だし声色も大事だよね。でも1番目立つのは動きだよ」
私は皆の前に立った。
そしていづみを立たせる。
「今さっきの先輩と後輩の関係だと、2人は仲がとても良くて先輩が後輩を揶揄うシーンだよね」
真澄くんと至さんは私を見つめる。
私は人差し指を立てて1回目、と言う。
後輩役のいづみの横に立って肩を組む。
そして前を向いたまま聞く。
「お前、新しい彼女できたってマジ?」
次に、2回目。
少し離れたところからいづみに軽くぶつかる。
そしていづみが振り返った瞬間肩を抱き寄せる。
顔を覗き込んで笑った。
「お前、新しい彼女できたってマジ?」
皆は私達を見たままだ。
いづみは私の顔を見て頷いて皆に聞いた。
「皆は、どっちが仲良さそうに見えた?」
皆2回目だと言う。
…良かった。ちゃんと演技できてたみたい。
「なんでだと思う?」
私が聞くと咲也くんが手を挙げる。
「…肩を組むだけじゃなくて、わざとぶつかったりするとか、顔を見てからかう事とかですか?」
私は笑う。
「そう!ほら、こうされたらどう思う?」
綴くんの肩を組んで顔をのぞき込む。
すると綴くんは固まってしまった。