第1章 春組『出会い』
中庭に入ると少し懐かしさを感じる。少し荒れているようには見えるけど…。
私は中庭に誰も居ないのを確認して、いづみに見せてもらった今作の台本を少し記憶に残っている場面を演じてみる。
「えーと、確か…『家族を捨てられない…』いや、違うか?もっと…『家族を捨てられないっ…』…ぽいけど違う…」
ここの部分は家族とロミオ、どちらも大事なジュリアスだからこその演技が必要だ。
何度繰り返しても納得のいく物が見つからない。
首を傾げていると後ろから話しかけられた。
「...何してんの、アンタ」
振り返ると真澄くんが立っている。
「あ、真澄くん。今ちょっとセリフ練習を。...そういえば真澄くんってジュリアス役だよね。もし良かったら見せてくれない?」
真澄くんの表情は変わらない。
あ、朝も練習したのにもう嫌か。
「...ごめん!やっぱ無し!」
「明日もいるんだろ。練習見たら良い」
謝ると真澄くんはそう言って中に入ってしまった。
...そういえば私泊まって良いんだよね。
明日練習見てから帰って良いかな。
そう思ってウキウキでいづみの部屋に向かった。
朝、私は台所に行ってご飯を作ることにした。
簡単におにぎりと卵焼き、ウインナーを焼いたものを人数分用意しておく。
そしてラップをしてから朝練に向かった。
「おはようございます」
挨拶してレッスン室に入る。
皆は準備運動を終えたところのようだ。
「はよっす!」「おはようございます!」
「おはよーダヨー!」「おはよう」「...」
皆挨拶にも個性が出てて面白い。
私は会釈をしてからレッスン室の隅に座った。
するといづみが手を叩く。
「じゃあ皆、2人ずつでエチュードをしてもらおうかな。...雨国は昔ここでお父さん達の演劇を見てたし、学生時代も部活で劇やってたからアドバイスしてもらおう」
いづみ凄いハードル上げるな。
私は昔から幸夫さんの事も劇団の事も知ってる。
ずっといづみと居たからっていうのもあるかも。
でもその分の実力が付いたかと言えば分からない。
皆の期待通りのアドバイスができるのか...。
とりあえず練習を見せてもらおう。