第3章 春組『心機一転』
「……俺」
「入っていいよ」
真澄くんの声を聞いて、2人して今さっきまでのふざけた顔を引き締める。
ドアが開くも真澄くんはドアの近くで立ち止まる。すると彼の後ろから咲也くんの声が。
渋々前に来た真澄くんは視線を下にずらしたまま私たちに謝った。
「…ごめん。雨国の事殴っちゃって。監督のこと無視して……」
「気にしないで」
「全然大丈夫だよ。それより、私の言葉も真澄くん気に入らなかったんじゃない」
『私のためじゃダメ』って言うやつだろう。
私は無言で2人の話を聞く。
「気に入らないって言うか……分からなくなった。どうすれば良いのか、誰の為にすればいいのか」
「私は演劇を好きになって欲しかったの。私以外に演劇を熱中する理由。練習メニューもしてくれたでしょ?あれから演技も良くなってたんだけど…」
「俺には元から好きな演劇がある」
真澄くんが私たちを見る。
「演劇するきっかけになったのは監督の演劇を見たから。…俺が目指すのは……雨国の演劇」
私達はお互い顔を見合わす。
そして何も言わずに抱きしめ合う。
「……え、私たちの演技が?」
「信じられない。凄いよいづみ!私たちの演技が真澄くんに響いたんだよ!」
真澄くんは真顔のままのいづみを見つめる。
するといづみは嬉しそうに微笑み始めた。
「ありがとう。真澄くん」
「……うん。好き」
「…………演技がね?」
「好き」
真澄くんの様子が変わる。
私達がより一層の抱きしめ合うと咲也くんが真澄くんを引きづっていく。
だんだん遠くなっていく2人の声を聞きながら私たちは顔を見合せてまた笑ってしまった。
「マジ凄くない?」
「凄いよ!感動だよ!」
私達は興奮しながらもお腹が空いていたから夜ご飯を食べる為に談話室へ向かった。