第3章 春組『心機一転』
その手は咄嗟に前に出た私の頬に直撃した。
「痛っ……」
「っ…、ごめん、俺叩くつもりじゃ……」
真澄くんは目を見開いて手を震わせる。声が酷く震えていた。
「ううん。大丈夫」
私はぶたれた方の頬を抑えながら微笑む。
女の子達は急に静まり返った。
「え、…私達なんかやばい事言った?」
「ううん。…真澄くん頑張って練習してて凄いかっこいい仕上がりになってるの。楽しみにしててね」
少し顔を引き攣らせる彼女達にも微笑んでそう言うと少し頷いてから去っていった。
「…………」
さっきより空気が重たくなってしまった。
……失敗か。
コンビニに寄るも真澄くんは何も買おうとしない。
「アイスでも買おっか」
そう言って適当に皆の分もアイスを買っていく。
真澄くんは何も言わずに頷いた。
「ただいま」
「おかえり。遅かったじゃん。早く帰ってこれたんじゃなかったの?」
至さんが私を見て笑う。
咲也くんが真澄くんの荷物を受け取って中身を見た途端パッと目を輝かせた。
「わあ…、俺この限定の味食べたかったんです!美味しそう…」
「やっぱり?私も!」
そう言って微笑むとジッと私の顔を見ていたシトロンさんが私の頬を撫でた。
「…頬赤いヨ?」
そう言われて皆も私の顔を見る。
「ほんとだ。どうしました?」
真澄くんの顔がドンドン険しくなっていく。
私はそれを見て首を横に振った。
「何でもないよ。ちょっと部屋行ってくる」
そう言っていづみの元へと向かった。
部屋に入ってお互い何があったかを話す。
……いづみを無視するってよっぽどだな。
だからあんなに朝早かったのか。
2人して無言になってしまったから私は呟く。
「……てか、もうおばさんだよ?」
下を向いていたいづみの肩が震え出す。
私はいづみの横に座って軽くもたれる。
「…………泣いてんの?」
「そうっ……ふふ。……あははっ!」
我慢の限界が来たのか足をバタつかせて笑い始める。それに釣られて私も笑ってしまう。
「おばさんって、雨国?」
「いや待って。言われたのは私だけど同い年だよね?てことはいづみもだよ」
「私言われてないもーん」
ニヤッと笑ういづみに頬を膨らますと部屋のドアがノックされる。