第3章 春組『心機一転』
LIMEに新しく2人が追加された。私はつい苦笑いしてしまう。
「ほんとに、相談だけね?」
「うん」
真澄くんがコクコク頷いて私の方へ向き直す。
「ていうか、これも至から聞いたけどブラックのとこで働いてるんだ。なら辞めればいいのに」
「凄い饒舌になったね…。…あそこは私の生活に必要不可欠な場所だから辞められないかな」
私が笑って答えると真澄くんはそっぽを向く。そして窓から外を見ながら小さく呟いた。
「……いつもしんどそうだったから」
「あ…、心配してくれてた?」
私が真澄くんの方に寄ると綴くんが後部座席に振り返って笑った。
「珍しいっすよ。コイツが人の心配とか」
「うるさい」
綴くんの言葉に真澄くんがキッと睨む。私はフッと笑ってしまった。
「ごめんね。心配してくれてありがと」
「……別に」
「ツンデレ」
真澄くんはそう言う至さんの座席を蹴り上げる。
「あ、おいコラ!危ないだろ」
「うるさい。しゃべんな」
注意されても蹴り続ける真澄くんに、綴くんと私は顔を見合せて笑った。
荷物を軽くまとめて積んでもらう。
お気に入りの台本や絵本を会社からくすねてきたダンボールに詰めた。
お持ちあげようとすると綴くんに止められる。
「俺、持ってくっすよ」
しかし朝の練習で疲れているだろうからと思って私は首を横に振って笑って箱を持つ。
「大丈夫だよ。ありがと」
「ちょ、アンタ下見てっ……」
歩き出すと足元に激痛が走って視点が揺れた。
ダンボールを投げ出してしまう。
しかし体に衝撃は来なかった。
目を開けると目の前には顔を歪める綴くんが居た。
綴くんが私を引っ張ってくれたらしい。
綴くんの太ももの上に座ってしまっている。
座り込んだまま腰を摩っている綴くんに謝ると真澄くんが部屋に入ってきた。
「っ…。綴ソイツから手離せ。殺すぞ」
「ちょっと待て。誤解」
私の腰に添えていた手を離して手を上げている彼。そして立ち上がって笑った。
「怪我ないっすか?」
そう言って手をひいて立たせてくれる。
今私公演を控えてる人に怪我させてしまうかもしれない事をしてたんだ。