第3章 春組『心機一転』
「雨国さん今日は定時で帰れそう?荷物取りに帰るなら車の方が良いでしょ」
会社までの道を運転しながら至さんが聞いてくるが、すぐにうんとは頷けない。
悩んでいる私を見て至さんは笑った。
「絶対雨国さんのとこブラックだろ。それとも仕事遅いの?」
「遅いわけじゃないはずなんだけど…、頼み事を断れないと言うか」
「あー、ぽいわ。変なとこ生真面目そ〜」
「ほんとに断れないんですよ〜」
2人でグダグダ話していると突然、
「俺ら付き合う?」
…頭がおかしくなった。
「も、もう1回。何か聞き間違えた」
「だから、付き合おって」
にっこり笑いながら言う至さん。何で急に…。
顔が熱くなるのが分かった。
何も言えずに黙ってしまうと至さんはクッと喉を鳴らして笑い始める。
「はは、断らなきゃでしょ。流されて付き合うとか嫌だろ?」
私はからかわれたと気づいて深く溜息をつく。そして至さんを見つめた。
「……だって至さんみたいにかっこいい人だったら言うことナシじゃないですか。本気だったらちゃんと考えたいですし」
「え……。…はは、照れる。…あ、着いたわ」
顔を背けて車を止める至さん。
私は車から出て頭を下げた。
「ありがとうございました!昼休憩までに帰れそうか伝えさせてもらいますね」
「はーい」
手を振って見送りをしてくれた至さんは車を発進させて職場へ向かった。
迎えに来てもらうと綴くんと真澄くんも来ていた。
後部座席に座ると横にいた真澄くんが私を見る。
「…アンタ、至の告白断らなかったらしいな」
「は?」
私が首を傾げると至さんが笑う。
「だってほんとでしょ?断らなかったじゃん」
綴くんもミラー越しにこっちを見ていて、私は慌てて否定した。
「いやいや、冗談だったでしょ」
「冗談じゃなかったら付き合えたってことでしょ?しかも俺雨国さんのLIME持ってるし。お前ら持ってないだろ」
自信満々に言っている至さん。すると他の2人もスマホを取り出す。
「ずるいですよ。俺も良いすか?」
「俺も」
「いや、待って?元は演劇の相談でしょ」
2人の行動を止めるも無駄らしい。
「演劇の相談する」
「俺もします。台本とか」
「ええぇ……」