第3章 春組『心機一転』
夜ご飯を食べ終わって私は中庭を歩いていた。
すると後ろから声を掛けられて軽く叫んでしまう。
「ひゃあ!?」
「しっ…。皆寝てますから。…雨国さんはこんな夜中にどうしたんですか?」
咲也くんの顔を見て私はコクコクと頷いて声のボリュームを落としながら答える。
「ちょっと散歩に」
すると咲也くんも少し微笑んだ。
「俺もです。落ち着けなくて…、練習も出来ないので散歩に来たんです」
私は咲也くんの何とも言えない表情を見て聞いた。
「殺陣の事……?」
「いいえ、違います。…もし良ければ俺の話聞いてくれますか?」
そこから咲也くんの家庭の話。
ロミオへの熱い思い。
演劇を好きになったきっかけを聞いた。
私も咲也くんにいくつか昔の話をする。
「私も昔は咲也くんみたいに演劇に凄い熱が入っててさ。やる気がない人を見るとイライラしちゃって」
「そのくらい頑張ってたんですよね!うわぁ、俺雨国さんと演技してみたいな」
「やろやろ!…あ、でも上手くいかないかも」
目を輝かせる咲也くんの手を握る。
咲也くんも手を握り返して頷いてくれる。
「上手くいかなくてもきっと楽しいです。そういえば……」
どんどん会話に花を咲かせていった頃。
「雨国ー、まだ…って咲也くんも?早く寝なくちゃ!殺陣頑張ってやるんでしょ?」
いづみが私たちの方へ走ってくる。
私達はスマホの時間を確認した。
「もうこんな時間…。すみません!付き合ってもらって。おやすみなさい!!」
「「おやすみ〜」」
私達は咲也くんと別れて部屋に向かった。
今日は朝早く起きれなかったな。
朝練に遅れた事を謝ろうとレッスン室のドアを開くと咲也くんが真澄くんに殺陣を教えてもらっているのが目に入る。
「え…」
感動のあまり手で口を覆っていると綴くんが笑う。
「ほんとびっくりっすよね。俺らもです」
「だよね?何があったの……?」
「さあ、明日は槍でも降りますかねー」
2人でそう話していると真澄くんが私達の方に振り返って近づいてきた。
「早く来て。少しはマシになってる」
そう言われて私は2人の殺陣を見せてもらう。
まだぎこちない部分はあるもののとても成長していて観客にも見せられるレベルになっていた。