第2章 春組『早くも2回目の呼び出し』
車が動き始めた。
相談と聞いて身構えていると至さんが口を開く。
「…俺、やっぱ辞めようと思って」
「え?」
私は至さんの顔を見る。
至さんは前を向きながら笑っていた。
「…初代の人も言ってたじゃん?やる気がないならやらなくていいって」
そう言う至さんに私は拳を握りしめた。
私も何度もこんな風に思った事があった。
皆とのやる気の差を感じたり、逆に皆が手を抜きすぎてイライラしていた時も。
「…わかります」
「……わかるの?」
私はこくんと大きく頷く。
至さんは赤信号で止まってから私の顔を見た。
「…でも、そこで諦めると辛いのは自分です。至さんは何でそう思ってるのかは知らないけど」
「投げやりだな、おい」
「…愚痴くらいなら私は聞けます」
ハッと鼻で笑った至さんに真剣に。
すると至さんは目を伏せて小さく呟く。
「……俺は、元々は衣食住が揃ってるからってなんとなく劇始めた人間なんだよ。だからさ、咲也を見てるとなんか、…凄い、申し訳なくなるんだよね」
「それで良いんじゃないですか?きっかけなんか何でも。…至さんは引け目感じてるんでしょうけど、私には少なからず至さんも演劇に真剣に向き合っているように見えます」
私は微笑みながら至さんを見つめる。
至さんは俯いたまま少し頷いた。
「…もう少し考えてみる」
「ですね。そうしてください」
家の近くについて車を降りる。
すると頭を下げると至さんに呼びかけられた。
「ちょっと待って。…連絡先交換しよ」
スマホを探している至さん。
「愚痴聞いてくれるって言ったじゃん。大丈夫。俺がMANKAIカンパニーから出て行くことになったらちゃんと消すから」
見つけた、とスマホをいじる彼。
流されて連絡先を交換して家に帰った。
そして少ししてLIMEがきた。
『今日はありがと。監督にも相談したら同じ事言われたわ』
『ですよね。いづみは簡単には至さんのこと諦めないと思います』
『そうなのかな。とりあえず明日皆にも伝えることになったな』
『もちろんです。至さんの考え方が変わると良いんですけど。私は至さんが演じるティボルトしか見たくないですから』
…既読無視、と。
明日は私も仕事があるし早く寝よう。