第1章 無自覚な恋愛
「最近、おらふくんと距離が近過ぎですよ」
「え?」
ぼんさんはまた驚いた顔をし、それからくすりといつもの笑いを零した。何かと思えば、そんなこと? とぼんさんはヘラヘラするので、僕は真面目なトーンでさらに話続けた。
「僕、知ってるんですからね。この前は、おらふくんと二人きりでどこかに出掛けていたじゃないですか」
「あ〜、あれね」ぼんさんはいつも通りの表情でこう答えた。「本当はおんりーチャンに頼まれて食べ物を探していたんだけど、帰り道が分かんなくなってさ〜……そしたら偶然、おらふくんとばったり会って」
「なるほど……」
それはその時にも同じ話を聞いていたし、おらふくんもそう言っていたのは僕も覚えていた。おらふくんは氷を探しに行っていたのだが、雪原バイオームさえ見つけられずに迷子になっていたらしい。
「じゃあ、この前おらふくんの部屋からぼんさんが出てきた理由は?」
と僕が質問を重ねると、え、ドズさん見てたの? と明らかに焦った顔をした。
これはもう言い訳は出来ないだろうと僕は思ったが、途端にぼんさんが眉を吊り下げ、とうとう白状したのだ。
「実はさ、おらふくんの部屋にイタズラしようと思ったんだけど……」
「え、イタズラ?」
「ほんっの出来心よ。おらふくんのチェストの中にゴミを入れようと思って」ぼんさんは言葉を続ける。「そしたら、机の上にあったミニチュアドズル像にぶつかって壊しちゃったのよ。あ、もちろん、すぐ直したんだけどね?」
それは知らなかった。まぁこの世界は壊しちゃっても大抵のものは直せるからいいんだけど……ってよくないよね、ぼんさん?
「ぼんさん、それは……」
「もしかして、おらふくん怒ってた?」
「いや、それは知りませんけど……」
「じゃあなんなのよ?」
聞き返されてしまった。これはマズイ。いっそのこと単刀直入に聞いてしまった方がいいんだろうか、と思案していたところ、おんりーが地下から上がってきた。
「氷、敷き終わりましたよ」
おんりーが声を掛けてきたので、僕はすぐにぼんさんから目を逸らして立ち上がった。
「お疲れ様! 暑いのにありがとう、おんりー。冷たい飲み物を出すね」
僕はぼんさんからの視線を痛い程感じながら、冷蔵庫から冷やした再生のポーションを取り出した。