第7章 外の面(とのも)
「え。」
その場にいた者にとって予想外の発言だった。けれど、しばしの沈黙の後には同意を示すように頷く姿がいくつかあった。
「良いですね。菊さん、ずっと万事屋にこもりっぱなしですから、たまには外の新鮮な空気を吸うのも良いんじゃないですか。」
「そうネ。逆にこんな狭苦しい所に何ヶ月もいる方が凄いアル。定春も姐ちゃんに来て欲しいって言ってるネ。」
「ワンッ!」
正直、吉原と言う檻の中で暮らすのが当たり前だった菊に「外に出る」と言う発想はなかった。歩き回れるのは屋内だけで、外に繋がる戸を潜る行為自体、何だかいけない事のように思えた。それに、文字通り狭い世界で生きて来た菊にとって外は未知である。遠い記憶の中で両親と共に町を歩いたような気もするが、殆ど覚えていないのが現状だ。だから菊の胸には不安がよぎる。小さな子供でも出来るような買い物でも、常識を知らない自分の存在は皆の邪魔ではないのかと気がかりだったのだ。
「私、足手まといにならない?」
思い切って菊は問うてみる。
「何言ってるネ、買い物行くだけアル。姐ちゃんが心配するような事、何もないアルよ?」
「そうですよ。揚羽ちゃんは菊さんと一緒に行きたいみたいですし。何かあっても、僕たちも付いてますから。大丈夫です。」
神楽と新八の笑顔の後押しは少しだけ菊を勇気づける。菊が外へ出る事を認めてくれる存在。それは、普通の人が思うよりも彼女にとってありがたい存在だった。二人の了承を得た菊は、今度は何のリアクションもしない銀時を見つめる。万事屋の主である彼にも許しを得たかったのだ。
見つめられた銀時はポリポリと頭を掻きながら適当な態度で答える。
「良いんじゃねーの? 」
この日を境に、万事屋の買い出しは五人と一匹になった。