第5章 貴方に教わる命の繋ぎ方
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「っお、おう。犬の手とんとん、だ。」
いきなりの不意打ちで、銀時は言葉に躓いた。小さな子供相手に言うように「猫の手とんとん」と口にしたのは銀時であったが、まさかこんなに可愛らしい返事が返って来るとは思わなかったのだ。
吉原で男達に良いようにされ続けられたからか、菊は人に易々と心を開く事は当然なかった。声に信用の色は無く、喋る事も最低限しか言葉にしない。だが、共に時を過ごすと同時に菊は万事屋の面々を受け入れ、そして自分から話し掛けるようにもなった。そうしたコミュニケーションの中で、知った事がある。それは菊がとても幼い事だ。
初対面の時は強気な性格をした女だと思っていた。自分の意志をしっかりと持っており、子供を守る為に何でも一人でやり遂げようとする。だが、必要以上に他人を暴言で遠ざける姿はさすがに憐れだった。それでも根気よく彼女と付き合えば、全ては自己防衛の為に塗り固められた嘘だと気付く。言葉遣いが荒いのも己を強く見せる為の仮面であり、その仮面の下には純粋な少女が居た。人生の大半を狭い鳥籠で生きて来た彼女は、人を遠ざける事を覚える。が、一度でも菊に受け入れられて「世界」というものを見せてやれば、彼女は無垢な少女のように目を輝かせた。何も知らぬが故に、この年でも純粋な反応を返すのだ。
とても心臓に悪い。今までツッケンドンだったのだから、余計に素直な反応が胸にグッと来る。流行には疎いが、これがあの「ぎゃっぷ萌え」とか言うものなのだろうか。
ゲフン、ゲフンと、横道にそれる思考を銀時は無理矢理止めた。
料理を続けるために、「包丁の刃を素材に対して前に押し出す」ように切る事を菊に指示する。時々危なっかしい手付きでみそ汁の具を切るものの、なんとか切り終えれば、後は沸騰したお湯に全てを入れて味噌を加えるだけだった。