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さよなら桃源郷(銀魂:銀時夢)

第5章 貴方に教わる命の繋ぎ方


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 綺麗に魚を焼き終われば、後はみそ汁を作るだけだ。半寸胴鍋でお湯が沸騰する間に、銀時はカウンターでまな板と包丁、そしてみそ汁に入れる具材を並べた。普段なら魚よりも先に汁物を作るが、今回はあえて包丁を使う料理を最後にした。どれだけ料理に対して不安を持っているかは知らないが、菊がキッチンという空間に慣れた後に刃物を使う方が良いだろうと思っての事だった。実際に包丁を渡せば、菊は今までにないほど不安そうな表情をする。

 なんとか菊の不安を和らげようと、銀時は子供に教えるように手の使い方を指示する。利き手で包丁を持つのは当然だが、逆の手の指は丸めて、あらかじめ皮を剥いておいたジャガイモを押さえるように教える。しかし、菊は握りこぶしを作ってしまい、上手く野菜を固定出来ずにいた。これ以上どう説明すれば良いのかを考えた後、銀時はテレビでの受け売りを口にする。

「ほら、あれだ。猫の手ぇ思い出せ。気持ち的にニャー、みたいな感じで手を握れ。猫の手とんとん、だ。」

「ねこの、て……?」

「……え? 何? もしかして見た事ない?」

 いやまさか。さすがに野良猫がゴロゴロいる江戸で猫を一度も見た事がない訳がない。だが菊の様子を見る限り、本当に知らないらしい。

「お母さんが読んでくれた絵本で見た気がするけど、覚えてないわ……。」

「吉原には居ないのか?」

「『死角』に愛玩動物は居なかったわ。その日のおまんま代を稼ぐのが精一杯だったんですもの。居るとしたらネズミとゴキブリぐらいかしら。」

 それを聞いて銀時は納得する。確かにあの場所は害虫や害獣しか住み着かないだろう。猫の代わりになりそうな動物を思いつくしかないようだ。

「うげっ……。あー、じゃあアレだ。定春! 定春の手ぇ思い出せ。何か丸いけど、ちょっと平べったいだろ、全体的に。」

「う、ん。」

 今度は想像しやすかったのか、菊は上手くジャガイモを握る。それを褒めれば、菊は下唇を噛み締めながら少しはにかむ。けれど何かを思いついたのか、菊はふと顔を上げて銀時に尋ねた。

「……じゃあ、犬の手とんとん?」
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