第5章 貴方に教わる命の繋ぎ方
「……今は違うの?」
天人が地球に襲来し、鳳仙の手によって吉原桃源郷が復興するようになった後、菊は「死角」で生きる事を強いられた。只でさえ地上から断絶されている吉原の中、菊は最も世界から遠い場所に入れられたのだ。勾引し(かどわかし)に遭う前の幼い頃の記憶は、恐らく覚えていて戦時中の江戸までだろう。
当時は今と比べて何もかもが手に入らなかった。戦にかり出される男達は必然的に農耕生活から離され、女子供がその分働く。が、天人も馬鹿ではない。「腹が減っては戦はできぬ」とはよく言ったもので、どれほどの猛者であろうとも、食うものがなければ刀を握る事すらが出来ない。無慈悲に農家を潰す天人の作戦で、栄養失調を起こして亡くなる人間も少なくはなかった。
栄養のある卵は、高価な食材には違いなかった。けれど時は流れ、全てが変わった事を銀時は菊に教える。
「天人の技術が日の本で普及してからは大量生産が楽になったんだよ。高級なのは別だが、10個で100円以下な時もあらぁ。」
「……うそ、すごく安い。」
「これでも高ぇんだぜ? かぶき町は物価が高いからこの値段だが、ちょっと田舎の隣町まで行きゃあ50円台で手に入れられる事もあんだ。もっと田舎なら、それ以下であるかもな。」
少しだけ得意そうな顔して言う銀時の言葉に、菊は驚きを隠せなかった。よく食卓に並べられるのには気付いていたが、10個で100円を切っているのには驚くしかない。事実、大喰らいが住まう万事屋一家で節約は命だ。最も安い値段を探すのは決して怠ってはならない重大任務であり、広告チラシでバーゲンの情報が入れば隣町でさえ訪ねる事もある。