第5章 貴方に教わる命の繋ぎ方
日が昇るのと同時に起き、自らの足で立ち、自らの足で洗面所へと進む。手洗い、歯磨き、洗顔と、現代の道具を未だ使い慣れないながらも、その日の身だしなみを整える。そんな当たり前な単純作業を行えるだけで、菊の雰囲気は明らかに輝くようになった。見た目はまだ痩せこけてはいるものの、肌に病的な白さはもうなく、常に目の下にあった隈もない。たったこれだけで見間違える程の美しさになった。顔の作り自体は、絶世の美女とは言えないが、恐らくこのまま健康的な食生活と適度な運動をすれば、また一段と美しくなるのだろう。お妙から分けて貰った着物も着こなし、若者らしい姿は目に入れても痛くない。普段の生活を続けるのに大きな問題はなくなった。
唯一、未だ問題があるとすれば菊の体力の無さだろう。元々『死角』で出来る運動と言えば夜伽ぐらいしかなかった。遊郭の中を歩き回るのもせいぜい30メートルもない部屋から部屋への移動のみ。筋肉があまりにも発達しなかった菊にとって、十数週間の寝たきりだった期間は体を鈍らせるのには十分だった。そんな自分の体を自覚し、彼女は出来るだけ万事屋の中を歩き回るようになる。洗濯の仕方も新八から教わり、行ったり来たりを繰り返しながら小分けした着物を運んで洗い、干して行く。最初はこの仕事だけでも体力を使い切って居間のソファで横になっていたが、最近では続けて食器洗いも終わらせられるほどになった。徐々に出来る事が増えて行く喜びを味わう毎日である。
そんなある日、銀時は見ていたテレビの時計が午後4時過ぎを表示しているのを確認してから菊に声をかけた。