第5章 貴方に教わる命の繋ぎ方
まるで吉原での生活が無かったかのように、菊は一切の傷がない体を手に入れた。よほど己の醜い体がコンプレックスだったようだが、今の菊は寝室からで出て来る機会が増えている。それに喜ぶのはもちろん菊を心配していた万事屋の面々である。彼女は今まで、本当に最低限しか部屋から出なかったのだ。食事、トイレ、風呂、そして家賃を支払う為だけに寝室から姿を現していた。
それも仕方の無い事なのかもしれない。手足が使えない以上、菊の移動手段は銀時に頼んで抱えてもらうか、床を這い蹲って目的地へ辿り着くかのどちらかである。日輪が所持しているような車椅子を使用する事も検討したが、掌の火傷も酷い故に、自ら車椅子を押すのには負担が掛かるばかりだ。食事と着物を畳む時以外は手を使う事を控えている菊には向かない選択だった。誰か一人は看護の為に万事屋に残したかったが、薬代を稼ぐために請け負った依頼の数も半端ではなかった。総出で働かなければとても捌ききれない。
一人で留守番する菊も菊で、弱音は一切吐かなかった。今まで自分の事は自分でやる習慣が身に付いているのか、暗い表情はしていても、余程の事で無い限り他人に頼るような真似はしなかった。強い女である。迷惑を掛けないように出来るだけ全てを一人で抱え込もうとしていた。その姿には痛々しいものがあったが、「もう少しの辛抱だ」「もう少しで薬が買える」と万事屋の面々は心の中で菊を応援し、菊に甘えた。留守番をさせる事で余計に菊に負担を掛ける結果となってしまったが、今日日の菊を見れば間違った選択でなかった事に安心する。