第4章 あたたかな 〜銀時篇〜
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一つの薬を所持し、静かに万事屋の戸を開ける。僅かな音でも菊ならすぐに反応して迎えの言葉を投げかける。しかし、万事屋はしんっと静まり返っていた。思った通り、彼女は寝ているようだ。何も出来ない菊は一日の大半を寝て過ごしていると言う。仕方の無い事だ。むしろ傷だらけの体を酷使して欲しくない。無理に働くより、安静にして健康状態を取り戻す事に専念してくれた方が、何百倍も嬉しい。本人は無力である事に気が滅入っているようだが、万事屋の皆は彼女を認めている。傷や火傷は消えないが、日に日に良くなる顔色に皆が喜び、安堵しているのを彼女は知らない。
そんな菊を起こさないように、そそくさと銀時は台所へ進む。コンロの前で立ち止まれば、懐から薬を取り出して開封した。近くの台にそれを置き、銀時は換気扇のスイッチを押し、コンロに火をつける。気持ちを落ち着かせるように深く一息吸って吐けば、銀時は左手を火に入れる。
ジュウゥゥゥ
「…っ。」
焼ける手を火の中で炙り続ければ、焦げ臭い匂いが鼻に突く。神経が麻痺しそうり、やっと銀時は火から手を抜いた。コンロの火を止め、焼けた手を見る。それはビリビリとした痛みと共に痙攣し続けていた。恐らく菊の火傷と同等、もしくはもっと酷い怪我になったであろう。
掬ったか掬ってないかの量の薬を、銀時は右手の薬指を使って瓶から取った。それを未だに震える左掌に薄く塗る。よく延びる薬は、たった一掬いで火傷を覆う事が出来た。そして見る見る内に怪我が癒えて行く。ものの数分で傷跡が跡形も無く消えていた。攘夷戦争時代から残っていた僅かな傷まで無くなっていたのだから、予想以上の効果に驚愕するしかなかった。けれど同時に喜びも沸き上がる。これなら、菊と揚羽、二人の体を癒す事が可能だ。
銀時は応接間の机の引き出しに、薬を大事にしまった。