第4章 あたたかな 〜銀時篇〜
何も出来ず気落ちしている菊に、これ以上心労を与えない為にも薬の事は内緒だ。だから電話をするのも万事屋では出来ない。開店準備の最中だったが、事情を聞いたお登勢は快く電話を貸す。黒電話の受話器を手に持ち、名刺に羅列している番号を回す。
「あーこちら快援たぃ、うえっぷ。………えーお掛けになった電話番号はっゔぇえ、現在使われてっうっぷ。」
受話器の向こうから聞こえてきたのは間違いなく辰馬の声だった。一度は対応しようとしていたが、相変わらずの船酔いで言葉が続かない。よくそれでも船に乗り続けるものだ。間を空けて誤摩化そうとしているが、銀時は電話を切られる前に直ぐさま喋る。
「オイ、バカ本。俺だ。」
「んん?その声は金時じゃないがか!久しぶりじゃのう!」
名前を間違えるのも相変わらずだった。
「銀時だっつてんだろうが!……相談したい事があんだよ。」
桂と同様、必要以上に時間は無駄にしたくはない。銀時は単刀直入に用件を切り出した。
「何じゃあ、珍しいのう。」
返ってきた辰馬の声には、いつものふざけた音色は無かった。その声を皮切りに、銀時は菊の事、彼女の状態、そして欲しい薬の詳細を全て話す。長々と喋る銀時に、辰馬は時々質問を挟む。菊はどれくらいの範囲で怪我をしているのか、人間なのか天人なのか、予算はいくら持っているのか、薬が届く期間はどれくらい待てるのか…。恐らく、出会ってここまで真面目に話し合ったのは初めてかもしれない。大方の話が終われば、辰馬がある発言をする。