第4章 あたたかな 〜銀時篇〜
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万事屋に帰れば、まだ夕方ではないのに銀時が戻った事に驚く菊が居た。寝室にちょこんと座る菊に「ちょいと忘れ物」と一声かけ、ジャンプが山の如く積み上げられた部屋の一角へと足を運ぶ。忘れ物と言ってジャンプへ向かう理由が分からない菊は、訝しげな視線を銀時に送ったが、銀時は背中に突き刺さる視線は無視してまだ半分しか読んでいない最新号を漁る。
いつもなら発売日に買って一気読みするのが銀時のやり方なのだが、菊と揚羽が訪れてからは寝る前に少しずつ読み進めている。日中は忙しく働いていたし、布団に寝転んでしまえば疲れた体が睡眠を求めて眠りについてしまう。最初は長年一気読みし続けてきた銀時にとって、拷問に等しいペースのように思えた。一話読んでしまえばページを捲ってそのまま次の話も読み終わらせたい物である。
しかし、今は逆にそれがちょうど良いペース配分に感じて来ていた。一晩に七分の一ほど読み進めれば、一冊のジャンプを読み終わった次の日が発売日である。一気に読んでしまえば発売日が永遠に感じるほど長い。けれど少しずつ読む事によって愛読書を毎日楽しむ事が出来るようになった。その上で必要になったのが、しおりだ。
適当にその場にあり、適当に挟まる紙を使用したのだが、それがまさしく坂本辰馬の名刺だった。「いらねー」と思って捨てるつもりだったが、丁度良かったサイズとゴミに捨て行く面倒くささに「ま、いっか」とジャンプに挟んだのだ。ここ十数週間使っていたそれは、今や再生紙から取れたインクがこびり付いて元の白さが無いが、エンボス加工で刻まれた情報はまだ読める筈だ。それを最新号から引き抜き、「いってきまーす」と怠げに菊に声を再びかける。「…いってらっしゃい」と少々困惑した返事が返れば、銀時は急ぎ足でお登勢の元へ降りて行った。