第1章 序章
六年前、そんな几帳が客の一人に孕まされて娘の揚羽を産んだ。が、体力が足らず力尽きてしまった。私に残されたのは彼女の忘れ形見である揚羽だけになった。周りからは穀潰しが増えたと文句を言われたが、養育費は私が稼いで払う事を条件に、今は禿として店に置いてもらっている。あの子を生かしたいばかりに勝手な事をしたと思う。ここに居れば、いつかは男に躯を開かねばならない。きっとこの地獄に生きるくらいなら、母と共に死んだ方が良かったと、私はいつの日か怨まれる筈だ。
そんな懐かしい記憶と雑念から我に返れば、男は下品な笑いと共に、二本目の縄へ手を伸ばしていた。今度は何処を拘束されるのだろう。最も考えられるのは脚だが、もしかしたら腕の縄と合わせて複雑な結び方をするのかもしれない。けれど、男の手が向かったのはどちらでもなく、私の首だった。
背筋が凍る。コイツは今、何をしようとしている。
「へへ、おめえ締まりが悪いからな。」
下衆な笑みを浮かべながら、男は縄を首へまわし始める。抵抗しようにも、久々に味わう死の恐怖で動けない。いや、実際には死の恐怖ではなく、拷問のような苦しみに対しての恐怖だ。こういう輩はじわじわ痛めつけるのに快感を得る。いっそ殺して欲しいと思うくらい、限界まで嬲るのを奴らは楽しむのだ。慣れた手つきで数秒もしないうちに縄は結ばれた。冷や汗が全身から吹き出る。
やばい、コイツは相手にするべきではなかった。
そう後悔しても時既に遅し。男はまた躯を一物で貫き、首の縄を締め上げる。ぐっ、と呻き声を上げる。徐々に締め上げられ、気道が塞がれて息が出来ない苦しさで躯に力が入った。良いね、良いね、と興奮した男は、先ほどよりも動きを荒くした。