第4章 あたたかな 〜銀時篇〜
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「姐さんに『女の幸せ』を手に入れて欲しいって、この前言ったでしょ。」
そう長くもない道のりを歩いている間、少女は銀時に忘れさせるものかという勢いで過去の会話を掘り起こした。
「ずっと姐さんに言われ続けられたんだ。いつか地上に出て一人前に成れって。そうしたら一途で吉原に足を運ばない男の人と結婚しろって。愛する男の人と子供を作って家族を持つのが女の幸せだ、って。」
素朴な幸せだと銀時は思った。今の時代、一途な伴侶と共に家族を作るなどより、金持ちの相手を探して楽な暮らしを願う者が多い。若い女性を見ても、彼女らが望むのは自らを飾り付けて遊び歩く日々だ。「一人前になる」という観念は薄そうである。それ故に、菊の幸せ論は古い考えであっても、純粋な魅力があった。
「ねえ。姐さんも地上に出たし、銀兄さんも姐さんに家事を教えるんでしょう。だったら後は家族を持つだけで姐さんは幸せになれるはずじゃない?」
「…それがアイツの『幸せ』だっつうなら、そうかもな。」
一人で生きる術を持ち、家庭を作るだけで幸せなら、菊はあと一歩で手に入れるだろう。吉原に居た頃よりは大分夢に近づいている。しかし揚羽の次の質問により、菊が幸せになるには大きな障害がある事が明確になる。