第3章 あたたかな
このシスコンが。
銀時はこのシスコン姉妹に呆れ返っていた。何を言うにも、何をするにも、結局この姉妹は互いを優先するのだ。姐が口を開けば揚羽、揚羽。チビが口を開けば姐さん、姐さんと微笑ましいを通り越して若干うざい。だがしかし、炎上する前の遊郭で辛い年月を共に生き抜いた事実を考慮すれば、他者が決して割り込む事が出来ない絆があるのは頷ける。が、やはり銀時にとってうざい事には変わりなかった。とりあえず、薬は揚羽に使用済みであることを伝える。
「さっき新八に連れてかれる前に塗ったんだよ。綺麗になってたぜ。」
成る程、先ほどコソコソと銀時と揚羽が何かをしていたのはそれだったのか。納得した菊は薬の効果を直接見れなかった事を残念に思いっていた。そしてこれ以上は言い訳が思いつかず、とうとう折れて薬を塗る事にした。
自分で塗ろうと銀時に手を伸ばしたが、すぐに薬は遠ざけられる。その様子に菊は不満を覚える。
「私に薬を使って欲しいの? 欲しくないの?」
「馬鹿。最初に脱げっつただろうが。俺が塗ってやるから早くしやがれってんだ、コノヤロー。」
やる気の無い表情とやる気の無い声で急かされ、菊もなんだか体力を削がれる。反論する元気もなく、菊は素直に全てを脱いで薬は銀時に任せた。
銀時は少量のクリームを人差し指の腹で掬い取り、まずは菊の顔に薄く延ばした。顔の次は首、首の次は胸、背中、腕、と徐々に菊の下半身へと手を進める。強張った筋肉を解すように銀時はマッサージも欠かさなかった。体勢も楽になるように横に倒される。
横たわったまま塗り終わった腕を顔まで近づけて見て、菊は驚きを隠せない。もう消える事などありえないと思っていた傷はもう目につかない。酷かった火傷も嘘のように消えている。見えるのは健康的な白い肌だけである。上半身を慌てて少し持ち上げ、今銀時に薬を塗られてる左の太ももを見た。驚異的な早さで傷跡が消えてゆく。奇跡を目にしたかのように、菊は息をのんだ。そして銀時の作業が終わるまで静かに待っていた。