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さよなら桃源郷(銀魂:銀時夢)

第3章 あたたかな


「それは何。」

 結局見せられてもそれが何か分からなかった菊は銀時に質問を変えて再度問う。

「どんな怪我にでも効く薬だ。量は少ねぇが、効き目は抜群だとよ。天人が開発した特殊なヤツで、傷も全部消えるぜ。」

「…いらないわ、そんなもの。」

 伏し目がちで菊は差し出された薬を拒否する。

「何で。」

 予想内の反応だったのか、銀時は特に表情も変えずにただ理由を問いただす。

「っ、薬が勿体ないわよ。私なんかに使ったら。」

「ま、アンタの意見は聞いてねーけどな。それに、これはアンタの為の薬だ。使わないってんなら、それこそ勿体ねぇ。」

「そんな高そうな薬、使うなら揚羽の火傷に使ってよ。私は古傷だらけなんだから、今更そんなもの塗ってもどうせ全部は消せないわ。」

 菊の返す言葉には嘲笑が表れていた。万事屋に来たばかりの頃は包帯を体中に巻き付けられたが、今は動きづらいと菊が漏らしたため最低限の量しか巻かれなかった。主に酷い火傷を負った手と足である。それ以外に着物から覗く肌は、長年の暴力で付けられた痕と共に露になっていた。外出は滅多にしない、そして万事屋に客が来ても寝室に引きこもる為、隠すのが億劫になっていたのだ。本当に今更、体が普通の娘のように治るとは思っていない。銀時が菊のために無駄な金を注ぎ込もうとしているのを阻止する意味でも、菊は菊なりの良心から薬を断り続けた。

「んじゃあ、物は試しだ。こいつで傷が治んなかったら、俺はコイツを買ってきたその辺の薬局のホラ吹き店長から金を巻き上げる権利を得る。もしお前ぇの傷が全部消えれば、文句はねぇだろ。」

 銀時はそれでも薬を差し出し続けた。

「試さなくても良いって言ってるでしょ。使うなら揚羽に使って。それか、自分で使いなさいよ。万事屋に入る依頼でいつか怪我するわよ。」

「バーカ、擦り傷くらいで使う程コレは安くねーんだよ。それに揚羽、揚羽うるせーんだよ。アイツにはもう使ってるに決まってんだろ。」
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