第3章 あたたかな
そんなある日曜日の朝、菊は他の者よりもゆっくりと朝食を食べていた。ここ最近は日曜も仕事に出ていたが、今日は珍しく皆で休日のようだ。新八は使い終わった食器を洗っており、神楽は定春の散歩の準備をしている。銀時は揚羽を寝室へ連れてゆき、何やらコソコソとしていた。フレンチトーストの最後の一口を口にした菊は、静かな声でごちそうさま、と呟く。それと同時に寝室の襖が開く音がした。
「新八。」
寝室から出て来た銀時は新八の名前を呼び、目配せをする。それを見た新八は銀時が何を言いたいのか理解したのか、すぐにはい、と返事をして神楽と揚羽、そして定春を連れて万事屋を出て行った。それを銀時は黙って見送り、菊は居間のソファに座りながら困惑した表情を見せる。
玄関が閉まれば、銀時は菊に歩み寄り、そして彼女を姫抱きで持ち上げる。何も言わずに彼が向かったのは寝室である畳の部屋だった。中に広げられ用意されていた青いタオルケットの上に菊を座らせれば、銀時は部屋の片隅にある箪笥の中をガサゴソと漁りだす。
探し物はすぐに見つかり、それを片手に菊の元へ戻る。
「おい。」
「何。」
「服脱げ。」
「良いけど、何故。」
服を脱ぐのは吉原で慣れているし、菊をお風呂に入れるのも、体中の包帯を巻くのも銀時の役割だったので、いきなり脱げと命令されて抵抗はない。しかし理由も言わずに脱げと言う銀時の意図が分からず、聞き返えした。
口で説明するのが面倒なのか、銀時はだた手に収まっている小さなクリーム入れを菊に見せる。直径3センチの丸形で、深さは1センチ程度である。中は半透明な白いクリームが入っているようだが、張られてるラベルの文字には違和感があった。読み書きが出来ない菊に確証はなかったが、なんとなく日本語ではない気がしたのだ。その勘は外れず、実際に文字は遥か遠い星の言語で書かれていた。