第2章 そして貴方と出会った
「はっ、売女の誇りなんぞたかが知れてる。男に股開きゃぁ、誰でも成れんだよ。安い誇りなんざ振りかざして一人前気取りか。笑わせるねぇ。地上に上がっても男に媚びる事でしか生きられないくせによ! それにあんた、見た所処女だろ。男も相手にしたことのない生娘がなに吉原の代表者面してんのさ。」
「黙りんす!」
売り言葉に買い言葉。激化する菊の暴言に、思わず月詠は菊の頬を叩いた。頬に当てられたガーゼで音はあまり出なかったものの、痛みはそれなりにあったのか、菊は口を閉じた。はっ、と月詠も自分がした事に気づき、一言すまないと告げる。
「辛いのは分かる。『死角』は吉原の中で最も悲惨な状況だと他の百華から聞いておった。」
「…ならば何故、助けにこなかった。」
苦々しい声で菊は問う。
「あの区域は他と比べて遠い位置にあった。中心部の火の手に手間取って、ぬしのいた区域に辿り着くのに時間がかってしまった。すまない、わっちらがもう少し早く動いていれば、ぬし以外の遊女達も助けられたはずじゃ。」
「何の話をしてる。」
「何の、じゃと? 数日前の火事の事を言っておるんじゃ。」
助けとは、数日前の吉原炎上の際の事だと思っていた。すぐに救出できなかた理由をはっきり述べた筈だと月詠は当惑した面持ちで菊に返事をする。
「誰がそんな事あんたに聞いた?」
「っ、ではぬしは何が聞きたい!」
また言い争いが勃発しそうな雰囲気が漂い始める。先陣を切るように菊はまた声を荒らげた。