第2章 そして貴方と出会った
「姐さんがいた遊郭ではね、歴史に名を残した花魁の名前が源氏名として与えたられるんだって。」
静かに、けれどしっかりとした言葉で揚羽は彼女のいた遊郭の事情を話し始めた。
「姐さんは最初、勝山っていう源氏名だったの。でも、床で働きだしてからは一番指名が入るようになった。人気があるっていう意味じゃないよ。『指名』が一番入ったの。あの遊郭で一番指名を受けるってどういう意味かは分かる?」
「…いや。」
単純に一番稼ぎが多いと思った銀時だが、どうせ正しい答えだとは思わなかったので、そのまま幼い少女からの答えを待つ。
「体に傷や痣が付くって意味だよ。お店の中で、一番醜い体をしているの。」
「…。」
「その内、姐さんの源氏名は『鈴蘭』に変えられたの。一番指名を受けていて、一番醜い体をしている事を皮肉にして。」
銀時の脳裏には、菊を助けた夜の記憶がよみがえっていた。地雷亜との戦いが終わった後も体はボロボロだったが、尚も続く火災の被害を食い止める為にあちらこちらと走り回っていた。そんな中、遠目で燃え上がる建物の格子を破ろうとする菊の姿が目に入ったのだ。近くまで走った頃にはもう子供は外へ投げ出されていた。無事に揚羽を火の手から救った後も、己の脱出をするのかと思ったが、女はそのまま安心した表情で床に倒れ込んだ。まずいと思った銀時は急いで格子を派手に愛刀の洞爺湖で壊し、菊を抱き上げて助けたのだ。外の子供も拾い上げ、間一髪の所で崩れる建物から離れる事が出来た。その後、菊と揚羽を治療の為に他の百華に引き渡したのだが、その時に着崩れた菊の着物の隙間から尋常ではない数の傷が見えたのだ。女の身でどうして此れほどまでに傷を負う事が出来るのか、と銀時は顔には出さなかったものの、酷く驚いた事を覚えている。