第2章 そして貴方と出会った
「さぁ。私まだ六歳だもん。歴史とかよく分かんない。他の『死角』に関する質問は姐さんに聞いてよ。」
「はっ、ませガキがよく言うぜ。」
明らかに何か他にも知っている。そう銀時は確信していた。年齢の割には博識で、行動力のある少女が意図的に答えを渋っているのは明らかだった。見舞いと称して部屋まで引きずるのもそうだが、わざわざ菊に訪ねるように仕向けているのには理由があるのだろうか。銀時には揚羽自身に対する疑問がいくつか浮かび上がっていた。
「ふふ、それ以外に質問はある? お兄さん。」
不満そうな銀時の顔は無視し、揚羽は次の質問を待ち構える。これ以上『死角』に関する答えは期待できないようなので、銀時も違う内容で新たな問いを投げた。
「あいつの源氏名が『鈴蘭』なのは何か特別な理由とかあんのか。」
「…お兄さん、『傾城鈴蘭』の事、知ってる?」
「あぁ? 何だよソレ。」
すぐに質問に応えず、逆に質問で問い返してきた揚羽に雑な返事をする。
「何十年も前、吉原の遊女の中で一番人気だった人。」
「一番人気?」
「そう。彼女ほど男の人を虜に出来る花魁は、今の吉原でもいないんだ。」
そんな花魁、聞いた事があるだろうか、と銀時は己の記憶を探る。しかし、脳裏に浮かぶのは現在の一番人気である日輪の名前だけだった。元々それほど女を買う金もない。それに吉原に訪れても酒が飲めれば満足するので、どの花魁が人気かなどは気にした事がなかった。
「その『傾城なんちゃら』とあいつは関係あんのかよ。」
「無いよ。」
「は?」
「直接的には、全く関係ないよ。」
「んじゃ、おめーの姉ぇちゃんがあそこまで切れてんのは何でだ。」
「姐さんが、一番お客をとっていたから。」
「…。」
話が噛み合っていない。付いて行けないとでも言うように、銀時は黙り込んだ。そんな銀時を横目で見て、揚羽は悲しげな瞳で視線を足元に落とす。