第2章 そして貴方と出会った
「『死の角』、ねぇ。」
「その区域に連れてこられる遊女は、皆すぐに死んじゃうの。だから、吉原の中では『死の角』って言われてるんだ。」
予想外、とまでは決して行かないが、物騒な説に銀時の表情が僅かに歪んだ。
「やっぱ、銭見世でやっかいな男達を相手にしてるからか。」
「うーん、それもあるけど、多分、夜王の所為だと思う。」
「は? 鳳仙?」
少女の口から出たのは以外な名前だった。吉原を独裁し、女達を常闇に閉じ込めていたその男は、しばらく前に銀時の手で倒されている。鳳仙の脅威などもうこの自由な吉原(国)にはない物だと思っていたが、まだ完全に闇は晴れていなかったのだろうか。
「たしかそんな名前でしたっけ。その鳳仙って人が吉原を仕切ってから、あの区域に連れてこられる女の人は皆、鳳仙に反抗的だった人だったんだって。」
他人事のように揚羽は『死角』の遊女達について語りはじめる。
「何度も反抗的だったから、一番安い女として売られてしまったの。だから、百華は夜王の命令で、最低限の見回りしかしなかった。体を安く売って男達に一生嬲られるのが、『死角』に送り込まれた女達の罰なの。」
「そいつぁ確かなのか。」
辻褄は聞いている限り合うとは思う。吉原に昇る太陽を賭けて鳳仙と戦ったが、鳳仙自身が一体どういう人物かはよく知らない。だからヤツが吉原の王としてそういう罰を女達に与えても不思議はない。しかし詳しい吉原の歴史を知らない銀時には真偽を図りかねた。