第2章 そして貴方と出会った
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そんな菊の一方的な怒りが月詠にぶつけられる中、部屋の外には二つの影があった。一人は菊が救った命である揚羽であり、もう一人はその菊を炎から救った坂田銀時である。いつものように菊の部屋に向かった揚羽は、吉原の道でぶらぶらしていた銀時を見つけ、一緒に来るよう半ば強引に引っ張ってきたのだ。菊を助けた時に一度会っただけだが、積極的な性格をした少女に迫られ、嫌々ながらも銀時は仕方なく菊のお見舞いに連れてこられる。
部屋に辿り着けば、開いた襖からちょうど月詠が優しく菊に吉原炎上の結末を告げているのが見えた。菊が目覚めている事に舞い上がっていた揚羽はそのまま勢い良く部屋に入ろうとしたが、銀時がすかさず少女を引き止める。一瞬、銀時を恨めしそうに睨んだが、様子からして起きたばかりの姐をあまり刺激するのは良くない、と死んだ目で説教され、しぶしぶタイミングを見計らいながら部屋の外でスタンバる事にしたのだ。
雰囲気的に流れは良い方向へ向かっているかのように思えた。実際、月詠が揚羽の話題を出した時、姿を現そうとも思っていたのだ。しかし菊が怒りだし、いきなりの急展開についつい部屋に入るチャンスを逃してしまった。未だに続く菊と月詠の攻防に、二人はただ時が過ぎるのを待つしかなかった。しばらくは沈黙を守っていたが、中の二人が落ち着くのに時間が必要だと察した銀時は口を開く。
「おい、唐揚げっつたか。『死角』って何だ。」
適当な名前で呼び、中の会話から聞こえた気になる単語を少女に問う。吉原には幾度か足を運んではいるが、銀時にとって『死角』とは、初めて聞く言葉だった。吉原の女同士では通じているようなので興味が浮かんだのだ。暇つぶしにと話題を振ってみる。