第2章 そして貴方と出会った
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開いた襖から姿を現したのは一人の女性だった。それは菊が数年前に噂で聞いた百華の頭らしき人物。きめ細かい金髪に美しい容姿、そして羨む程の女性らしい体系。顔に大きな傷が二つほど付いているが、それ以外は批難しようのない姿だった。奇抜な着物を着ているが、動きやすさは重視しているようだ。実際に見るのは初めてだが噂と違わぬ人物に菊の心は冷める。
そうか、この女が私達を見捨てた百華の頭か。
疲労が溜まっていて考えるのも億劫な所に、密かに怨んでいた人物が登場した事で、菊は苦い顔を浮かべた。名は知らぬが、頭の肩書きを口にする。
「…死神太夫。」
菊が起きていた事に対してか、それとも吉原の者に肩書きで呼ばれた事に対してか、女は驚いたように目を見開く。初対面だが、決して好意的では無い視線を送る菊に女は語りかけた。
「月詠、と呼んでおくんなんし。起き上がって平気か。ぬしは五日も眠っておったんじゃ。あまり無理をするな。」
優しく静かに労る月詠に、菊はなんの反応も示さなかった。ただただ目の前の女を見定めるかのように、厳しい視線を送り続ける。戸惑いは僅かにあるものの、月詠は菊を安心させるように語りかけ続けた。
「ぬしの目が覚めて良かった。同じ遊郭から逃げ出した者達も何人かおったが、殆どは逃げ遅れてしまったようじゃ。多くの遊女が建物の中で焼け死んでしまった。本当にすまない。百華がもう少し早くあの場に到着しておれば、ぬし以外の者達も助けられたかもしれん。」