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さよなら桃源郷(銀魂:銀時夢)

第8章 子の心、親知らず


 吉原に居た頃はそれでも良かったのかもしれない。辛い状況を生き延びるためには私心を滅して、必要な犠牲だと納得しながら生きなければならなかったのだから。しかし万事屋に来てからは違う。心の余裕が出来た今、そして一人の人間として生きる事が許された今、状況は変わったのだ。感情の束縛がない以上、二人は「親」と「子供」になれる、否、ならなければならない。そうしなければ、二人は互いを苦しめ合う関係のままだ。

 そんな悲しい姿はあってはならない。だが、このままでは二人とも心が潰れてしまうのが事実。それは阻止しなければならない。どちらかに本音を曝け出させ、状況を一新させなければならない。あやめは菊と揚羽の微妙な繋がりを大きく揺るがし、揚羽に一種の恐怖を植え付けてしまった。放っておけば、揚羽と菊の心の距離が取り返しのつかないほど遠ざかってしまう。決定的な状況を作り出してしまった今、出来る事をしなければならない。そんな想いで、銀時はこの時を二人のために好機を作り出そうとした。その第一歩として、彼は揚羽と共に家を出たのだ。そして苦しみと試練も共に背負う事を伝える。

「万が一、オメーの声だけじゃ届かねーってんなら、俺もお前と一緒に叫んでやるよ。届くまでずっとな」

「ぎ、んにぃ……」

 根本的な問題が解決するにはまだ時間がかかるかもしれないが、幼い子供の怒りや悲しみを解放させる事には成功した。銀時の言葉も慰めになったようで、揚羽の息づかいも鼻が詰まったものから「すーすー」としたものに変わる。どうやら泣き疲れて眠ったようだ。赤い目元が痛々しいが、寝顔は解放されたような表情を浮かべていた。腕の中の幼子が起きぬよう、銀時は静かに揚羽を抱え直す。
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