第8章 子の心、親知らず
支離滅裂な説明の中、幼い少女から発せられる想いを繋げてゆく。やっと吐き出された激情は孤独から来るものだと、銀時は理解した。恐らく揚羽が不満なのは、菊の揚羽に対する認識だろう。
あまり詳しい事は聞いていないが、菊が己を酷使してまで揚羽を育て上げたのは知っている。しかしその育て方には何処か一線を引いている節があった。褒める時は褒め、叱る時は叱る。メリハリのある躾は揚羽を真っ直ぐな子供へと成長させたが、何かが足りなかった。その足りない何かとは、揚羽が今しがた言った「触れ合い」と「気持ちの表現」だ。
菊は揚羽に触れる事を極端に怖がっている。それは彼女の中にある揚羽の認識が「娘」ではなく「親友の形見」なのが原因だろう。菊にとって揚羽は親友が残した大事な宝物だ。しかし本来、その子供は亡くなった几帳が育て、愛情を注ぐはずだった。命が果てた几帳の代わりに育てはしたものの、やはり産みの親から「親」と言う大事な役目を奪っているようで、後ろめたさを感じているのかもしれない。それ故、自ら思いっきり揚羽を抱きしめた事はないし、「好き」と言葉で愛情表現をしなかった。
同時に感情の表現も極端に少ない。褒めたり叱ったりは一応するが、その態度はとても淡淡としていた。まるで知らない子供を一時的に預かったかのように、本気の怒りや喜びを表した事はない。総合的に厳しく意見を言えば、菊は育ての親としての責任を十分に果たしていなかった。几帳の代わりに引き受けた「母」としての役割を中途半端にしか行っていない。だから揚羽も、菊から必要とされていないように感じていた。