第8章 子の心、親知らず
「……嘘つきっ」
零れたのは非難の言葉。じんわりと涙がまた集まり始めた瞳は、酷く傷ついた眼差しをしていた。揚羽の脳裏には先ほどの菊の様子が蘇る。優しげな表情で「幸せ」だと語っていた姐の瞳には、見間違えようのない悲しみが映されていた。菊は必死に負の感情を誤摩化そうとしていたが、人一倍の洞察力を持つ揚羽が姐の気持ちを読み取れない訳がないのだ。
「嘘つき、嘘つき、嘘つきっ! 姐さんの嘘つきっ! 本当は結婚して子供も欲しいくせに、何で嘘つくのよ! 何で隠すのよ! 私じゃ姐さんの子供には成れないのは分かってる。姐さんの幸せの邪魔してるのは分かってる! 分かってるから、本当の事を言って楽になってよ! はっきり私に『いらない子だ』って言って切り捨てて幸せになってよ!」
「何で『いらない子』だと思うんだ?」
何度も同じ言葉を口にする都度、揚羽の叫びは子供特有のわーわーとした泣き方に変わった。銀時はそんな子供の想いを聞き逃すまいと、質問を投げかける。
「だって! 姐さんはいっつも、私を抱っこしてくれない! いっつも、私に触ってくれない! 怒ってくれない! 怒鳴ってくれない! 好きって言ってくれない! 自分の方が辛い状況にいるのに、誰よりも私を構ってくれた! 護ってくれた! ……っでも、それなのに姐さんは私を怖がるの。私を見てくれないの! さっき忍者のお姉さんに噛み付いても、全然叱ってくれなかった! 私を止めたけど、私に謝らせなかった! まるで姐さんが全部悪いみたいに、姐さんが頭を下げてた! 本当はもっといっぱい怒って欲しい、抱きしめて欲しい、抱っこして欲しい、『私の自慢の娘』って言われたい!!」