第8章 子の心、親知らず
「揚羽! 止めなさい」
「姐さん……」
「言わせておきなさい。……ごめんなさい、あやめさん」
制止に入った菊はそっと揚羽をあやめから引き離し、深々と頭を下げた。未だ頭が冷めない揚羽は、そんな姐の行動を見て納得のいかない表情で話す。
「何で? あの人が言ってる事は間違ってるんだよ? 姐さんは子供なんか産んでないし、『女じゃない』なんて言われる筋合いないじゃない! 私が噛み付いたって謝る必要ないじゃない!」
「…………私は子供を産めないわ」
「え?」
「『女じゃない』って言うのは、あながち間違ってもないのよ」
「……嘘、だって」
突然告げられる事実に、揚羽は呆然とした。言われた事に頭が着いていかず、揚羽はおもわず銀時の顔を見る。そこには揚羽同様、菊の答えに驚きを見せる銀時がいた。それもそのはず。菊の体は銀時がしばらく前に塗った薬で治っていなければ可笑しい。銀時が商売人として腕を見込んでいる坂本辰馬の事だ。治らない薬のはずがない。なのに何故? 二人は共に困惑するしかなかった。
放心したまま、揚羽は菊に寄りかかる。頭を菊に預ける事により、やっと真実を受け入れた揚羽は、そのままぽろぽろと涙を落とした。前触れもなく涙を流し始める揚羽の頭に左手を乗せ、菊は静かな声で話しかける。