第8章 子の心、親知らず
下の方から震える声が聞こえる。あやめは声の主に視線を移せば、俯く揚羽がそこにいた。
「何か言ったかしら?」
「姐さんを、馬鹿にしないでよ」
聞こえるように言い直した揚羽の言葉には重々しい音色が響く。そして鋭い殺気を込めた睨みをあやめに向けた。素人とは言え、子供から受けた殺気に驚きながらも、あやめは返事をかえす。
「馬鹿になんかしてないわ。本当の事を言ったまでよ」
「何も知らないくせに色気違いの蓮っ葉が、姐さんを馬鹿にするな!!」
「んだと、このガキ!」
怒りが一気に最高潮へと達し、揚羽は勢いよくあやめに飛びかかる。年齢よりも小さな体をした揚羽は迷わずあやめの左膝を抱きかかえ、太ももへ噛み付いた。今まで見た事のないほど野生的になった幼子は、遠慮もせずにギリギリッと歯を立てた。ここまで積極的な攻撃をされると思わなかったあやめも、金切り声をあげながら揚羽を引きはがそうとする。だが一向に揚羽は離れない。むしろ状況は悪化し、今度はあやめの膝を捕まえていた手の爪も立て始める。
それを見た菊は、今までにないほど大きな声で揚羽を止めた。