第8章 子の心、親知らず
勝手に上がり込み、菊にメンチを切りながら暴走していたのは忍者の猿飛あやめだった。襲いかかる勢いで文句を言う彼女は、銀時の飛び蹴りによってやっと止まる。しかし、それはあやめの注意を菊から銀時へ移しただけで、喧しさは変わらなかった。
「はあぁん、この蹴りは銀さん! 待ってたわ、この瞬間を! さあ、もっといじめて。私を縛って、叩いて、罵って、この女にしたように『ピーーー』れば良いじゃないおォオオ!!!」
「テメーはその汚ぇ口を開くんじゃねー!!!」
銀時は内心、とても焦っていた。ここしばらくはストーカー被害にもあっていなかったため、正直あやめの存在を忘れていたのだ。菊に家事を教えたり、仕事へ出かけたりと忙しかったので、すっかりこの迷惑女の対処方を考える事を失念してしまった。
隙あらば銀時にSMプレイを要求するあやめは悪影響にしかならない。先ほどのように放送禁止用語を平気で連発するし、有りもしない銀時との関係を言いふらす節がある。そもそも彼女と関わって良い事など一度もなかったのが事実だ。今は菊が居る事もあり、銀時は迷惑製造機である猿飛あやめには黙っていて欲しかった。しかし、思うようにならないのが現実だ。
「んもう、銀さんったらホンット私のツボを心得てるんだから。さすが、同じ布団で寝た仲なだけあるわ」
「誤解を招くような発言すんなコノヤロー!!」
「……貴方、彼女の間夫(まぶ)なの?」
案の定、あやめは菊に誤った認識を植え付けた。