第8章 子の心、親知らず
二人が目にしたのは戸の開いた玄関。それだけならば何も不思議な事ではないだろう。家の中の空気を入れ替えるために戸を開けっ放しにするのはよくある。けれど、それをするのは家に銀時か新八がいる時だけだ。
依頼人が訪れても対応できない菊は銀時と新八が出払っている際、基本的に居留守を使っている。その時、戸には「申し訳ございません。ただいま不在です」と新八が書いた謝罪の張り紙を貼付ける事で客に断りを入れていた。
張り紙がある以上、万事屋の中は無人という前提だ。しかし、戸が開いていればそれも無意味となる。玄関がオープンな状態で出かけるなど、治安の悪いかぶき町ではありえない。それ故いくら張り紙があろうとも、戸が開けっ放しの状況では客が営業中だと勘違いして、入ってくる可能性があった。それが起きたら一番困るのは家で留守をしている菊だ。だから菊は決して銀時や新八がいない時間は戸を開けない。
新八が先に帰ってきた可能性もあるが、マメな彼が張り紙を戸から外さず家に入る事はないだろう。未だ断りの紙が玄関先に張り付いているのだから、眼鏡の少年はまだ仕事先で働いているはずだ。ならば何故、戸は開いているのだろうか。
銀時と揚羽は訝しげな視線を家の中に向けながら、静かに万事屋の中へ足を踏み入れる。足音を立てぬように歩き、事務所へと続く廊下を進んだ。そしてゆっくりと人の気配のある事務所を覗き込めば、二人の女性が見える。一人は言わずもがな、留守番をしていた菊だ。しかし、もう一人の女は非常に厄介な存在だった。