第8章 子の心、親知らず
「よう、今日もちっせー脳みそに何か適当に詰め込んだか?」
「いっぱいね! 今日は先生に漢字も教えてもらったの。これで一から十の漢字は完璧だよ」
「ほう、そいつァ結構じゃねーか。んじゃ、今度から買い物リストに一から十の数字を漢字で書いても分かるな?」
「うん! あ、あとね、あとね、昨日やった算数のテストも返ってきたんだ」
「どうだった?」
「内緒! 良い成績だったから、報告は姐さんが一番に聞くの」
「オイオイ、『良い成績』って言ってる時点で内緒でもなんでもねーじゃん」
「でも具体的な数字は言ってないでしょ。とった点数は姐さんが先に聞くの。銀兄さんはその後!」
「へいへい」
歩幅の狭い幼女に合わせた歩みはとてもゆっくりで、銀時は揚羽との流れるような会話を楽しんだ。寺子屋でも私生活でも充実した時を過ごしているからか、この子供からは笑顔も笑い声も絶える事がない。なんて事のない出来事も嬉しそうに喋る揚羽は「癒される」と、銀時の知り合いの間でも評判である。
そのまま一日で起こった寺子屋の出来事を銀時に話し続ければ、二人はあっという間に我が家へ辿り着いた。二階へと繋がる階段を上りながら、銀時は懐に手を入れて鍵を取り出す。しかし階段を上りきれば、鍵を握った銀時の手は無意味に宙を彷徨う事になった。少し遅れて階段を上りきった揚羽も動きを止めた銀時を見つけ、何事かと近寄る。