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さよなら桃源郷(銀魂:銀時夢)

第7章 外の面(とのも)


 乱暴な態度で譲る気がない銀時は、菊を心配しての事だと彼女は悟った。こうしてぶっきらぼうに物事を言う時の彼は大抵、不器用ながら菊を気遣っているのだと知っている。そうなれば、菊に出来るのは素直に銀時の言葉に甘える事だけだ。ありがとう、と口にすれば、そっぽを向いた銀時にシッシッと手で追い払われる。それが少し可笑しくて、口許を押さえながら建物の中へ向かう。

 なるべく入り口に近い椅子に座れば、銀時が長い列に並ぶのが窓から見えた。やっと休む事の出来た足は一層大きく悲鳴を上げてはいたが、菊は大して気にも留めなかった。これ以上の痛みなど、「死角」で十分味わって来た。痛みや苦しみで泣こうが喚こうが、休みなど決して与えられない。もはや痛みを通り越して麻痺する事を願う毎日だった。だから例え銀時に「あと三時間は歩く」と言われても、耐えて歩く気構えも出来ている。

 けれど菊は、今日もまた銀時の不器用な優しさを見れた気がした。きっとジャンプを買いに来たのは嘘で、もう少し菊に外の世界を見せるのが目的だったのだろう。週一の楽しみであるジャンプに敏感な彼が、発売日を忘れるはずがない。まあ、人間なのだからたまには忘れるかもしれないが、「今週は土曜日発売!」とここ数日騒いでいたのは彼だ。今週に限って買い忘れるのはあり得ない気がした。今もまた、銀時は初めての外出で疲れかけている菊に気付いて休息を与えてくれている。本当に、どこまでも優しい。その不器用な優しさも菊だけでなく、他の人々に分け隔てなく与えられているのだから余計に菊は彼を尊敬してやまない。彼に命を委ねて、本当に良かった。そう心から思える毎日である。
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