第7章 外の面(とのも)
一週間ほど前、初めて銀時に料理を教えてもらった時を思い出しながら菊は言った。「猫の手とんとん」を教わった当時、菊の記憶にある猫のイメージはこの絵本の猫しかなかったのだ。その後、動物を特集してるテレビ番組を見るようになり、今はもっとしっかりとした猫のイメージは持っているのだが、幼い頃に刻み付けられた印象は未だに根強い。猫と言えば、どうしてもこの猫を真っ先に思い浮かべる。
「随分ブサイクな顔してんな。」
「ふふ、そうでしょう? 絵柄の所為かしら。」
描かれているのは、あちらこちらに毛が跳ね上がっている生気のない表情をした白い猫。銀時でなくとも、万人が「ブサイク」と言うカテゴリーに入れるであろう面をしている。記憶も薄れ、字も読めない以上、菊にはこの猫がこの物語でどのような役割をしているのかは分からない。しかし、母との思い出の本に再び出会え、そして出所の分からなかった猫も見つかってとても満足した。先ほどまで羞恥で居心地が悪かったのが嘘のように、温かい気持ちで満たされている。その気持ちを大事に胸にしまい、菊は絵本を棚にそっと戻した。