第7章 外の面(とのも)
「ちょっとアンタ! 家の中からミッちゃんが使ってた箱車(はこぐるま)持って来ておくれよ!」
「ああ? んなモン、何に使うんでぇ?」
「揚羽ちゃんにあげんだよ。お使い頑張ってるご褒美さ!良いからさっさと持って来な!」
「へい、へい。」
そんなやり取りが行われた後「よっこらしょっ」と饅頭屋の旦那さんが店の奥から何かを持って来た。それを揚羽の目の前に下し、彼は揚羽の頭を撫でてそのまま踵を返す。旦那さんの姿がなくなれば、饅頭屋の女性も揚羽の頭を撫でながら言った。
「うちの孫が使ってたんだけど、最近はこれで遊ばなくなってねぇ。良かったら、貰っておくれよ。ちょっとは荷物運ぶのも楽になんだろ?」
「本当に良いの? ありがとう、おばちゃん!」
揚羽の目の前に置かれたのは文字通り箱に四輪を付けた箱車だった。本来は子供が積み木や玩具などを入れて物を運ぶ代物だが、食料を入れるのにも十分な大きさだった。みかん箱ほどの奥行きを持っているそれに上手く収納すれば、銀時から八割以上の食べ物を引き受けた。ガクガクと限界だった腕が重荷から解放されて銀時はほっとする。
古く使い込まれた様子の箱車ではあったが、素材は箱を引っ張る紐以外は全て木材で出来ており、丈夫な作りのようである。試しに揚羽が紐を引っ張れば、重い荷物を入れてもなお四輪はすいすいと地面を進めた。上等な物をくれた女性に改めて礼を言う。
「どういたしまして。ほら、おまんじゅうもどうぞ。好きだったよね?」
「うん。おまんじゅうもおばちゃんも大好き!」
「うふふ、おばちゃんも揚羽ちゃんが大好きだよ。」