第9章 TNTになった俺と傷つかない少女9
「俺はそろそろ帰らないといけないからな。元々俺は、この世界の人間じゃないみたいだし」
「よく分かんないし一緒にいてよぉ!」
「やめなさい、ミウ」
駄々をこねるミウを母親が引き剥がし、父親がミウを抱き上げた。ミウはそれでも暴れていて、父親がしっかり抱いていないと落ちそうだった。
「あなたは異世界から来たんですね?」
「ああ、まぁ、そうみたいですね」
「なら、元の世界に帰れるようにゲートを開きます」
「は……?」
そんなことが出来るのかと半分疑った俺だったが、ミウにあんな能力があるのならば、その親だって例外ではないはず。
母親はちらっと父親の方を振り向いて何かアイコンタクトを送り、二人は一定の距離を保ちながらなんらかの移動をした。母親は手で何か模様を描いているような動きをし、その間父親はミウを抱えたまま、空中を何度も蹴るような動作をした。
まるでどこかの拳法のような動きで。
それから気づけば二人の間には、真っ黒な円状の何かが浮かび上がっていた。それはよく見なくても俺には分かった。エンドポータルにエンダーアイを全てはめた時に見える星空のようなゲートの色だ。
「ここから通れば、貴方は帰れるはずです」
「これが、僕たちに出来る君への最大級の感謝の気持ちです」
だが、このゲートの先がどうなっているのかは自分たちは分からない。飛び込むかどうかは貴方次第だと言われ、俺は思わず息を飲んだ。
行くしかないよなぁ?
ミウは未だに泣き喚いていた。だが、俺のことはすっかり忘れてまた両親と仲良く暮らすだろう。俺のことは忘れていいのだ。なんたって俺は、体がTNTになった危ない男だ。
「ありがとうございます」
俺はミウの両親にそれぞれ礼をした。ミウの母親は少し心配そうな顔をしていたが、よく見るとどこかミウの面影を感じた。ミウは母親似らしい。
一方で父親は俺と同じく体格がよく、ミウが俺を全く怖がらなかったのは、父親に似ていたからだろうかと考えたが、駄々をこねてばかりいるミウからは、もう聞き出せることもない。
俺はゲートへと視線を戻した。果たしてこのゲートが本当に元の世界に繋がっているのかは分からない。また別の世界に飛ばされたら面倒だが、俺の体は元に戻って欲しい。
それから、一息置いて。
思い切りゲートの中へ飛び込んだ。