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歪み

第1章 懺悔


1991年に生まれた。

小さい頃から幽霊が見えた。赤い服を着た女の子。背の高い黒い影。巨大な虫に異形の形。両親に言うと顔を青ざめ、ご近所さんからは変な子供と後ろ指を刺された。幼稚園では一人になり、遊び相手は白い少女だった。

会話はしなかったけどいつもそばにいてくれた。ずぶ濡れの少女は危険を知らせてくれる。落下物や事故などを察知しての進路を妨害する。私はその子を“ハクちゃん”と名付けた。


小学2年生のある日。
川沿いを歩いていると親子とすれ違う。

羨ましいな…

は家族と仲が良くない。
それは自分だけ異質だから…

親子の後ろ姿を見ていると女の子の声が頭に響く。

《欲しい?》

とても優しい声だったから思わず言ってしまった。

「欲しい」

目の前に“ハクちゃん”が現れたが、いつもと雰囲気が違う。背が伸びて長い爪に真っ赤な口。下半身が百足のような姿に変わる。

「ハクちゃん?」

空いた口からは無数の牙。
肌に食い込む感覚が脳内に再生されて恐怖に動けなくなる。

それは一瞬だった。
瞬きをした瞬間にハクちゃんはいなくなっていた。
代わりに黒く、大きな人影。
が豆粒に見えるほど大きい。
高い位置にある男の鋭い視線の先には黒く潰れた“ハクちゃん”。

「ハクちゃん」

たった一人の友達だったが
食べられそうになったのを思い出して泣きたくなる。

「恨むなら俺を恨め」

全てを諦めたように、言葉を吐き捨てた男は歩き出す。

行ってしまう…

私以外に“ハクちゃん”が見えていた人。
腰を抜かしていたは弾かれたように立ち上がり長い足にしがみついた。

「行かないで!」

「ア?」

鬱陶しいそうにを見るが振り払おうとはしなかった。
大っ嫌いな家を飛び出して、ようやく自由に生きている男には余裕あった。必死にしがみつくをじっと観察する。

「はぁー、仕方ねぇな」

大きな手で首根っこを掴まれて足が宙に浮く。

「わ、わっ」

そのまま地面に下ろされて男はの目線を少しでも合わせよう長い足を折って膝を立てる。熊か黒豹を思わせる男に幼いながら見入ってしまった。筋肉が凄い。こんな大人見たことない。どんな幽霊よりカッコイイと思った。
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