第5章 ベビーホグリンおんりー目線
だが、俺は小さくてもホグリン。飼おうとする人間は一向に現れなかった。店主も俺のことを気に入ってくれて、来る人間たちに何度も力説していたのは聞こえてはいたが、最後に返すのは決まって「でも、ホグリンなんでしょ?」
店主は唸り声をあげ、もし新しい飼い主が誰もいなかったら自分の家に来るか? なんて話しかけてきたところ、その人が来店した。
「こんにちは〜」
「また来てくれたのかい、お嬢ちゃん」
「はい! ここにいる子たちが本当に可愛くって……」
どうやら常連客のようだ。パッと見は清楚系といった人間の女性だ。
「あ、その子は……?」
店主のそばにいた俺を、その人間は見下ろしてきた。俺もじっと見つめ返す。
「あー、この子はね、ベビーホグリンなんだ」店主は俺を手の平に乗せていつものように説明を始めた。「ホグリンといっても、人懐っこくて大人しいから、とても飼いやすいと思うんだけど……」
「へぇ、大人しいんですか……」
「でも、力は強いから、普段は頑丈なオリで飼育した方がいいと思うよ。誰にでもすぐに懐くとは思わないし……」
「店主さんと、仲良しなんですね」
ああ、そうなんだよ、と店主は応答していたが、その人間の目線はずっと俺に向けられていた。俺もじっと見つめ返すが、不思議なことに、この人間からは敵意を感じられない。店主とはまた違った眼差しだ。
「……この子は、売ってますか?」
「ああ、もちろんだよ」
「飼います」
「え、いいのかい?」
「はい!」
その人間はにこりと笑った。店主も笑うことはあったけれど、それとは違う笑顔だ。なんというかこれは、そうか、いつかずっと昔に感じた、あの温もりだ。
そうして俺はその人間の家に暮らすこととなった。すでに家には、スノーゴーレムとスケルトンと牛が飼われていた。きっとこの人間も何か企んでいるんじゃないかと警戒はしたが、他愛もない話を聞いて、そっと伸ばされた指先に触れて、そんな疑いは晴れていった。
そうして俺は、この不思議な飼い主の元で暮らすことにしたのだ。